誰も見たことがない映像に息をのみ、あなたは何に気づくか?「くじらびと」9/3(金)公開

「この映画は音響設備の整った大きなスクリーンで見てもらいたい。目の前でクジラを捕っている臨場感が全く違います。そのように撮りましたから」と話す石川梵監督=8月23日、大阪市内で

東京から南へ約5000km、インドネシアのラマレラ村は人口1500人の海辺の村だ。ここでは今も銛(もり)1本でマッコウクジラを突く鯨漁が行われている。9月3日(金)から全国で公開されている「くじらびと」は、自分がその場にいるような鯨漁の迫真の映像が目の前に迫ってくるドキュメンタリー映画だ。水中カメラで撮影したクジラの目、ドローンで撮影して初めて見えた海の中のクジラの様子……誰も見たことがない貴重な映像の数々と、鯨漁と共に生きてきた村人たちの日常から生まれるドラマ。それは30年にわたって現地に通い続け、揺るぎない信頼関係を結んできた石川梵監督にしか撮れなかった映画だ。来阪した石川監督に話を聞いた。

【石川梵監督インタビュー】

秘境を行く写真家として世界中を回っていた石川監督が、初めて現地へ行ったのは1991年のこと。まだインターネットのない時代で、ニューギニアを旅している時、人力で鯨漁をしている島があると聞いて半信半疑で訪れたという。

インドネシア・ラマレラ村

「当時はまだ山側から行く道がなかったので船で沖まで行き、小舟が迎えに来て入り江に入っていった。村に着くとクジラのにおいがプーンとして、クジラを捕る舟が並んでいた。一艘だけ壊れている舟があったので『どうした?』と聞くと『クジラにやられた』と。本当にこんな小舟で捕鯨をしているのかと驚きました」

クジラの漁期は5月から8月までの約3~4カ月。全長約12mの鯨舟(テナ)が、時には10艘ぐらい海に出てクジラを追いかける。

「漁期に合わせて毎年足を運んだが、クジラに出会えるまで4年かかった。朝早くから舟を出して延々と待つ。遮るものが何もない赤道直下の海の上で、8時間ぐらい目を凝らして待ち続ける。それを3カ月続けていると、気が遠くなってきます。

一番銛を突く人をラマファと言う。4年目に初めて鯨漁に遭遇した時の会心の1枚。「村の人から『梵の写真は生きている』と不思議がられます」

待っている長い時間、僕はシミュレーションばかりしていた。クジラが体当たりしてきた時に振り落とされないためにどう動くか。舟が沈んだら、どうやってカメラを守るか。

漁自体は勇壮だけど、現地の人にとっては延々と待ち続けることが鯨漁の本質。5月にはマンタも捕れますが、1年間全くクジラが捕れないこともある。なぜ、そんな非効率な漁にこだわるかというと、クジラを捕ると村の貧しい人たちにも食事が行き渡るから。

クジラ1頭の分配図が決まっています。漁期の初めにクジラ乞いの儀式をするのがトゥアン・タナと呼ばれる先住民の長です。ラマレラ村の人たちは、流れ流れていろんな所から集まってきた人たちです。先住民は、彼らに一番作物ができない、火山岩がゴロゴロしている浜辺に住む許可を与えました。村の人たちはその見返りに、クジラが捕れたら一番いい部分を先住民にあげる決まりです。

漁期の初めに行われるクジラ乞いの儀式

大自然と共に生きる人々は自然に対する畏敬の念を持ち、崇高な物語を生きています。この村もやはりそうで、知れば知るほど彼らの根っこに信仰があることに魅了されていきました。若い人たちは『あんな儀式しなくてもクジラは捕れる』と、2000年ごろから舟にエンジンを付け始めた。エンジンを付けることに反対していた先住民の長は、儀式を止めた。するとパタッとクジラが捕れなくなった。それで村人はクジラ乞いの儀式を再開してもらうよう頼んだ。いろんな変遷をたどりながら鯨漁が続いている。神話の世界ですね」

 

2010年には動物愛護団体が村に来て、刺し網を贈呈したり、クジラウォッチングを奨励したりして、村が大きく揺れたという。刺し網漁は夜中に漁をやるので、ラマレラ村でも一時期、朝から舟を出す鯨漁ができなくなったことがあるそうだ。彼ら自身で取り決めをして、漁期の間の刺し網漁を禁止して、鯨漁が存続したが、近くのラマケナという村からは鯨漁がなくなってしまったという。

鯨舟(テナ)は昔ながらの伝統的な釘を打たない方法で作られる。左右対称に作らない方がクジラの攻撃に耐えられるという

「その時、古老から『梵、お前が撮った写真を、刺し網漁とかやって自分だけ良ければいいという考えの若い者たちに見せてくれ』と言われた。『昔は皆が一つになって村のために鯨漁をやったんだ。その姿を見せてやってくれ』と。

僕にとってその言葉は衝撃だった。僕は日本や世界に、この村のことを紹介するつもりで写真や映画を撮っていた。それが、世代を超えて現地に還元できる。今回の映画づくりでは、やがてはなくなるかもしれない鯨漁を現地に、世代を超えて残せるんじゃないかという思いも大きなモチベーションになりました。それで、時間はかかりましたが、鯨舟を作るところを丹念に撮ったりしました。完成した映画だけでなく、その裏にある映像資料も、現地の人にとって貴重なものになったと思います」

 

石川監督は最後に「生物多様性と言われるが、文化の多様性も大切だと思う」と言った。「グローバリズムの中で、世界中にある多様な文化が淘汰されていっている。村の捕鯨も貴重な周辺文化の一つ。村は今どんどん変わっていっているが、僕はこの文化が失われてほしくない。そんな願いを込めて続編を考えている」そうだ。

【上映情報】9月3日(金)から、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田、神戸国際松竹、京都シネマで公開。

「くじらびと」公式サイト https://lastwhaler.com/

©Bon Ishikawa

 




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