東海テレビが報道局にカメラを持ち込み取材した話題作『さよならテレビ』1/4(土)から関西で公開

©東海テレビ放送

 26万人を動員した『人生フルーツ』(2017年、伏原健之監督)をはじめ、2011年以来、質の高いドキュメンタリー映画を続々と作ってきた東海テレビドキュメンタリー劇場。その第12弾、刺激的なタイトルの『さよならテレビ』が、関西エリアでは新年早々に公開される。

 

 監督は、同シリーズで『ホームレス理事長』(2014年)、『ヤクザと憲法』(2016年)を発表している土方宏史(こうじ)さん(43歳)。1980年代にフジテレビが「楽しくなければテレビじゃない」というキャッチフレーズを打ち出して次々に高視聴率をたたき出し、テレビはメディアの花形に躍り出た。土方監督が東海テレビに入社したのはテレビ全盛期の1999年。「特に何をやりたいとか深く考えず、楽しそうだなと」と志望したそうだ。

 

取材中の中根芳樹カメラマン(左)と土方宏史監督(©東海テレビ放送)

 そんな土方監督が自社の報道局にカメラを向けた。

 発端は5年前にさかのぼる。『ホームレス理事長』の公開を控えたある日、配給会社のスタッフが言った「次は東海テレビを撮ってくださいよ」という言葉を「面白そうだな」と心に留め「まさかね…」「でも、もしかしたら…」と温めていたという。後押ししたのは阿武野勝彦プロデューサー(60歳)の「取材対象にタブーはない」という言葉だった。監督が提出した企画書「テレビの今(仮題)」を読んだ阿武野プロデューサーは「さよならテレビ、だね」と一言。そして2016年11月、取材が始まった。

 

 映画の冒頭、報道局で働く人々の戸惑う姿が映る。土方監督は言う。

 「僕自身も被写体として出ることを覚悟して臨んだが、カメラが来るとイラつく自分に驚いた。何かミスするのを狙っているように思えて腹が立った」。取材“する”側から“される”側へ――いつも仕事で当たり前のように回していたカメラが、これほど人に威圧感を与えるものだったのかと改めて感じたという。

 

 撮影は1年7カ月、500時間に及んだ。2018年9月2日、東海テレビ開局60周年記念番組としてオンエアされたテレビ版(77分)を見た視聴者からは「華やかだと思っていたテレビの世界が、私の会社と変わらなかった」という感想が寄せられたと阿武野プロデューサーは話した。

 その映像に新たなシーンを加えた劇場公開版は109分。働き方改革が進む報道局で働くベテラン記者(契約社員)、アナウンサー(社員)、新米スタッフ(派遣社員)の3人を軸に、それぞれの働く現場を追っていく。

 

「東海テレビという非常に狭い世界を描いていますが、今の日本の会社を見れるようにという意図で編集した」と話す土方宏史監督=2019年12月24日、大阪市内で

 土方監督は言う。「10年前に僕が制作から報道に異動した時は、まだ視聴率よりも内容が評価されていた。『自分たちが何を伝えなければならないか』を自問自答しながら、表現すべきものを追い求めてきた報道現場が、『お客さん(視聴者)が何を求めているか』に軸足を置くようになり、商品を作る感覚に変わってきた。分刻みで視聴率を分析し、とにかく見てもらうことが大事という風潮は、この3~4年でますます強まっているように感じます。さらに、あらゆる場面においてリスクをゼロにすることが求められている。クレームの来ないものを、誰も傷つけないものを。それでますます息苦しくなっているのではないでしょうか」

 

 『さよならテレビ』は、そんな閉塞状況の中で、東海テレビができるだけ客観的な立場から描いた“自画像”だ。見る人によって、また、同じ人でも見るたびに違う思いが胸に湧き上がるに違いない。

 

阿武野勝彦プロデューサー=2019年12月11日、大阪市内で

 阿武野プロデューサーは「テレビ版を放送した直後、社内では『会社のイメージを棄損した』『マイナスの部分を意図的に切り取った』など私たちは非難の声にさらされた。しかし、時間の経過とともに理解が深まり、経営トップは『信頼しているスタッフが作る番組に、経営がガバナンスを効かせないのが、最も高度なガバナンスだ』と言ってくれた」と明かす。胸のすくような瞬間だったに違いない。

 土方監督は「プロデューサーの阿武野さんがいるから、東海テレビはドキュメンタリー映画を作ることができている。子どもが遊ぶ広場に例えていうと、プロデューサーは広場をつくる人。僕たちディレクター(監督)は広場で自由に動き回る子どもです」。

 萎縮せず自由に、手を変え、品を変え、“マスゴミ”と揶揄されながらもメディアは、答えのない未来へ向かって、それでも発信していかなければ、自らの使命を全うすることができない。その姿勢に共感を覚えつつも、わが身を振り返ると、問題の大きさに気が遠くなるような気分に陥った。(大田季子

 

 【公開日程】1月4日(土)から第七藝術劇場、京都シネマ、1月18日(土)から元町映画館、1月31日(金)豊岡劇場で公開。

 【トークショー】1月5日(日)第七藝術劇場12:30の回終了後、京都シネマ15:50の回終了後、阿武野勝彦プロデューサーと土方宏史監督のトークショーを予定している。




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