関東大震災から100年 虐殺事件を映画化した「福田村事件」9月1日(金)公開

ちょうど100年前の1923年9月1日11時58分に関東大震災が発生しました。震災から5日後、千葉県福田村で実際に起こった行商団9人の虐殺事件を題材にした劇映画「福田村事件」が9月1日(金)から公開されます。メガホンを取ったのは、「A」「A2」「i 新聞記者ドキュメント」など、数々のドキュメンタリー作品を制作してきた森達也監督。自身初となる劇映画作品への思いをお聞きしました。

 

―「福田村事件」を知ったきっかけは?

「A2」(2001年)を公開した翌年くらい、新聞で「千葉県野田市(旧・福田村)で慰霊碑を作る」という小さな記事を見つけたんです。なんとなく気になったので、野田市に行って慰霊碑が建立される予定の寺の住職に話を聞き、数少ない資料を探したりして、調べられる範囲で事件のアウトラインがわかったので、テレビで紹介しようとしました。報道番組の特集枠で放送できるかなと思って各局に持ち歩いたけれど、結局全部だめ。朝鮮人虐殺に加え、部落問題にも触れているので、放送は難しいと判断されたようです。

そこで「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」という本に書き、それっきり自分としてはもう引き出しの奥に入れたようになっていたけれど、ずっと気になっていました。

「FAKE」(16年)を撮った後に、次はドラマを撮りたいなと考えて、福田村事件を思い出したんです。ドキュメンタリー映画になるほどの素材は無いけれど、劇映画ならできるんじゃないかと思いついた。もう一度企画書を作って次は映画会社を回ったけれど、やっぱりテレビの時と同じでした。もうこの作品は無理かなと思っていた時に、福田村事件を映画にしようと別に動いていた荒井晴彦さんの座組と接点ができ、「お前がやりたいなら監督やれよ」と話が進んだのが、3年前の話です。

 

―チームでのお仕事はいかがでしたか?

僕一人では思いつかないようなことを発想してくれたり、チームの良さがあったのと同時に、これまで僕は一人か二人で作ってきたので、自分の100%の我を押し通すことができなかったということもある。一長一短でしたね。脚本、現場、編集の時など色々なところで議論しながら作っていきましたね。

 

―キャストもすごく豪華でした。

最初の段階で、いったい誰が引き受けてくれるんだろうという懸念がありました。公開すれば反日映画としてたたかれるかもしれない。そうすると出演俳優もたたかれるかもしれないし、事務所がNGを出すかもしれない。「これ役者さん見つけるの大変だよね」と言っていたんですけど、いざ蓋を開けてみると、東出さんは「森監督が劇映画を撮るなら絶対出たい!」と最初に手を挙げてくれて、その他もそうそうたる俳優たちが二つ返事で引き受けてくれて驚きましたね。

達者な俳優ばかりだとある意味単調になってしまうので、異化効果を狙って水道橋博士さんをキャスティングしました。ただ、水道橋さんは自分の思想と真逆の役だったので、これはどうやって演じるんだろうと現場でも相当悩んでましたね。

 

―撮影は2022年の夏ですが、コロナ禍で苦労されたのでは?

もちろんですよ。撮影は基本京都付近で、ほぼ合宿状態で撮りました。エキストラが100人以上の日もあります。もしも一人でも発症したら現場はストップしてしまう。ならば再開できるかどうかわからない。絶対に感染だけは回避する、と必死でした。終わった時には助監督が奇跡ですね、と言ってました。

 

―大虐殺のシーンは見ていてもなかなか辛いものがありました。

最近は残虐なシーンを回避することが多いけれど史実ですからね。
ステレオタイプな悪人だけは絶対に登場させたくなかった。普通の人が集団化した時に一人ではできない悪行をしてしまう。それは現実なんです。虐殺のシーンでも、例えば自警団が銃撃しながら尻もちをついたり、泣きそうな表情をするなどしてもらいました。純度100%の悪人は作りたくない。というか存在しないと思っているので。

 

―今後取り上げたいテーマは?

皆に冗談だと思われるんですけど、ホラーを撮りたいんですよね。ホラー映画って、いかに怖がらせるか創意工夫ができるし、映画のだいご味が詰まっているので好きなんですよ。
あと、3年前から撮り始めているドキュメンタリーの企画が1本あって、ここ数年中断してしまっているけれど、また再開する予定です。僕の中でドキュメンタリーとドラマを分けているのではなく、撮りたいテーマによってこれはドキュメンタリー、これはドラマで作ろう、と考えていく予定です。

 

―最後にメッセージをお願いします。

メッセージは映画に込めています。ここで言葉にしたくない。でも無理やりに一つだけ言うならば、南北戦争勃発に多大な影響を与えたと言われる「アンクル・トムの小屋」を書いたストウ夫人が、南北戦争が終わった後にリンカーンと会ったとき、「あなたの本が歴史を変えましたね(あなたのような小さな方が、この大きな戦争を引き起こしたのですね)」と言われて、「私の本にはそんな力は無いけれど、私の本を読んでくれた人たちが力を尽くしてくれたんですね」と言ったとの逸話を聞いたことがあります。
映画でも本でも、その一つひとつには何の力もない。でも、映画を見たり本を読んだりしてくれた人たちが、社会を変える力を持つ場合がある。今言いたいことはそれだけです。今回この作品は、歴史を知るための映画でもないし、教育のための映画でもなく、エンタメを作ったつもりです。ハラハラドキドキして、終盤の展開で思わずえっ!と声を出したくなるような映画を作ったつもりですから。メッセージは作品に込めているので、まずは見てください。

 

【作品紹介】
100年前の1923年9月1日に発生した関東大震災から5日後、千葉県福田村で起こった、行商団9人が地震後の混乱の中で殺された実際の虐殺事件。彼らはなぜ殺されたのか、村人たちはなぜ彼らを殺したのか。関東大震災時に各地で起きた「朝鮮人虐殺」、そして朝鮮人に限らず“善良な人々”が虐殺された日本の負の歴史をつまびらかにする。出演は井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明ほか。

映画「福田村事件」公式HP

https://www.fukudamura1923.jp/

©「福田村事件」プロジェクト2023

 




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