一からわかる基地問題~公開中のドキュメンタリー映画「沖縄狂想曲」太田隆文監督インタビュー

大田隆文監督は「沖縄狂想曲」の取材がほぼ終わった22年に脳梗塞を発症し、約1年動けない状態になったが、手術とリハビリを重ね、ようやく話せるようになった。監督と構成を担った映画は23年夏にほぼ完成。「すぐにでも公開したかったのですが、ドキュメンタリー作品の公開がたくさん控えているから、公開は来年にと言われ、えーっ!と思ったのですが、昨年暮れに発表されたオスプレイの製造中止というニュースも盛り込み、辺野古の工事も始まって、非常に関心を持っていただけるタイミングになった。プラスになっている気がします」(写真提供=青空映画舎)

沖縄には、なぜ今も米軍の基地があるのだろう? まもなく戦後80年にもなろうというのに――。自宅のある東京から沖縄に何度も通って「ドキュメンタリー沖縄戦」(2020年)、「乙女たちの沖縄戦 ~白梅学徒の記録~」(2022年)を相次いで世に出した太田隆文監督は「戦後の沖縄を知りたい」と新たな取材を2021年にスタートさせた。それらをまとめて、沖縄の基地問題を一から知ることができる、新作ドキュメンタリー映画「沖縄狂想曲」(115分)が順次、全国で公開されている。関西での公開を控えた2月13日、太田監督にオンラインで取材した。

【関西での上映情報】2月16日からMOVIX堺とkinocinema神戸国際で、23日(金)からアップリンク京都、24日(土)から第七藝術劇場で公開中。

【太田隆文監督インタビュー】

映画には約50人の人たちが登場し、強制土地接収から基地建設、米兵による暴行事件、米軍機やヘリの墜落、コザ蜂起、オスプレイ問題、普天間基地、辺野古など、テーマごとに証言を重ね、沖縄の抱える今の問題を解き明かしていく。よく言われる「基地がないと沖縄の人たちは経済的に困るのでは?」という疑問にも明快な答えが用意されている。

2026年に製造ラインが閉鎖されることが決まったオスプレイ

登場するのは、基地周辺の読谷村に暮らす様々な人々、劇団員、僧侶、美術館館長、政治家、故・大田昌秀元知事の側近を務めた人たち、地元新聞社の論説委員を務め、今は大学の教員となっている人たちなど。大田知事が基地のない平和な島を目指して構想していた沖縄の未来図「国際平和都市構想」、首相時代に普天間基地移設について「最低でも県外」と発言して物議を醸した鳩山由紀夫元首相の真意と現在も語られる。

それらの問題のバックボーンに通底しているのは米軍が日本に駐留するための指針を定めた「日米地位協定」と「日米合同委員会」の存在だ。同じ第2次世界大戦の敗戦国で、米軍基地があるドイツやイタリアと日本との相違も明らかにされ、何度も驚かされる……。

コザ蜂起のニュース映像

太田監督は言う。「以前に俳優時代の山本太郎さんに最後に出演してもらい、原発事故を題材にした『朝日のあたる家』(2013年)という劇映画を撮ったのですが、その映画製作を通じて原発は『電気が足りない』という理由で作っているのではなく、原発を使って金儲けをしている人たちがいるということが原発の事情だということがわかってきました。実は基地問題もほぼ同じ構造でした。『中国が攻めてくる』『北朝鮮から何か飛んでくる』という危機感が強調されていますが、実は日本がアメリカを利用して金儲けをしている側面が非常に強い。それなのに、その実態が原発と同じように隠されていて、一部の人たちが甘い汁を吸っている。映画づくりを通じて僕はそんな印象を受けました」

映画のタイトルを「沖縄狂想曲」としたのは、「音楽的な意味でなく、意味のないことをバカ騒ぎしている様子を示す狂想曲という言葉を、シニカルに皮肉として用いました。中国はアメリカまで届くミサイルを持っているから、合理的に考えれば沖縄を攻める必要は全くない。にもかかわらず、中国が攻めてくるという本来起きていないことを喧伝して『攻められたら怖い。沖縄の人はかわいそうだけど仕方ない』と許容してしまう社会になっている。それが、まさに基地問題、沖縄問題で、意味のないことを信じてバカ騒ぎしていると思うのです」。

鳩山由紀夫元首相にインタビューする太田隆文監督

先行して公開された東京では、見終わった人たちから連日熱い反応が届いているという。「こんな風になっているとは知らなかった」「多くの日本人が知るべき内容だ」「よくドキュメンタリーで“知られざる事実”をうたい文句にした作品があるが、この映画は本当に知らないことばかりだった」……。

「毎日何十人という方が『見ました』『見てください』『知らなかった』『素晴らしかった』とSNSに書いてくださっている。その反応は今までの僕の映画の中で一番多いんです。大切なこと、心に届いたことは、こうやってつながっていくんだなと励まされ、すごく勇気をもらっています。今回の映画にも出てもらった山本太郎さんは『基地問題の教科書的な作品』とツイートしてくださいました」

「映画で話してくださった専門家の皆さんは、説明がとても上手な方たちですが、難しい問題をとてもわかりやすく解説してくださっています。さらに、一般の人たちの話も何かが心に伝わってくる。それは、彼ら・彼女らが沖縄のことをより多くの人たちに知ってもらいたいと、熱い魂をこめて話しているからだと思うんですよね。そんな魂の叫びのような心を、映像を通じて伝えたい。最後の方で『基地、子どもたちの時代も続くのかな』と話す人がいますが、それを聞くと僕は泣きそうになります。この人たちは子どもたちのために、沖縄のために、こんなに考えて努力して頑張っている。そこが胸を打つし、見る人の心に刺さるんだと思うんですよね」

毎年6月23日の沖縄慰霊の日には多くの人が訪れる「平和の礎」。映画では「平和の礎の会」会長や「平和の礎」刻銘検討委員会座長経験者も証言している

最後に太田監督は「沖縄の現状を伝えるというのが今回の映画の一番のテーマですが、それだけではなくて、真実は何か? 現実はどうなっているんだ? だまされずに見抜く力が、人として必要なことだろうと思うんです。上から言われたことを鵜呑みにして信じるのではなく、本当だろうかと立ち止まって考えてみる。そういう考え方を伝えることも、僕は自分の映画のテーマの一つと考えています」と話した。

盛りだくさんの証言内容を、映画を見終わった後に整理して考えるために、パンフレットには、主要な証言メンバーのプロフィル、キーワード解説、戦後の沖縄の年表、基地の所在を示した地図などを盛り込んだ。沖縄への理解をさらに深めるために活用してほしいそうだ。

 

「沖縄狂想曲」公式webサイトはコチラ https://okinawakyosokyoku.com/

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【取材を終えて】太田隆文監督の話を聞きながら、戦後100年の沖縄に、米軍基地が残っていてはいけないと強く思った。建設が進む自衛隊の基地も気になる。もし万一、有事となった時に、実際に自分がどう振る舞うかはわからない。それでも、たとえ追い込まれても「命がないとダメ」と生きることを諦めない人でありたいと思う。そして、そのための力は普段から養っておく必要があるだろうと思う。過去の悲惨な歴史から学び、陥りがちな陥穽について知っておく方が、そういう力を養えるのではないかと。例えば、沖縄戦で集団自決した人たちに教え込まれていた「生きて虜囚の辱めを受けず」という言葉。それは、美しい幻想を振りまいて悲惨なところへ連れていく言葉だった。だから、美しい幻想はないよ、それにだまされちゃダメよ、と自らに言い聞かせたい。(大田季子)




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