軍事要塞化する沖縄の今をともに目撃し、考えてほしい 三上智恵監督最新作「戦雲-いくさふむ-」3/16(土)から公開

三上智恵監督は元MBSアナウンサー。1995年琉球朝日放送開局時に沖縄に移住し、沖縄をテーマにしたドキュメンタリー番組を多数手がけたのちに、映画監督となった(写真は配給・宣伝の東風提供)

「大学時代の民俗学以来、沖縄は私のライフワーク」と話す三上智恵監督の6年ぶりとなる最新作「戦雲-いくさふむ-」(132分)が3月16日(土)から公開される。関西では16日から第七藝術劇場(阪急十三)と元町映画館(各線元町)で、22日(金)から京都シネマ(阪急烏丸、地下鉄四条)で公開される。

三上監督は「標的の村」(2013年)、「戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)」(15年)、「標的の島 風(かじ)かたか」(17 年)、「沖縄スパイ戦史」(18 年、大矢英代と共同監督)を立て続けに発表した後、「ドキュメンタリーを作っても仕方がないのでは」と無力感に襲われ、過去5年ぐらい作品を作れなかったという。「辺野古も止められない、高江も南西諸島も止められない。負けていく映像をお涙頂戴で2時間にまとめたところで、それを見てどうするの? ドキュメンタリーを作るよりも、止めるためにもっとやれることあるのでは?」と悶々としていたそうだ。

それでも一人でカメラを構えて撮影には出掛けていた。

最近8年の沖縄の変化をつぶさに

今回の映画には2015年から23年11月までの8年間で取材した映像が収められている。それを見て驚かされるのは、美ら島・沖縄で、急ピッチで進む自衛隊の基地建設の物々しさだ。与那国島にはミサイル基地の建設も決まり、戦車やPAC3積載車が公道を走っている。石垣島では若者主導の住民投票運動がつぶされて、島の真ん中にミサイル基地ができた。宮古島では集落の近くにミサイル基地ができ、射撃訓練場を備えた弾薬庫も完成した。

8年間の撮影日記をもとにした最新刊「戦雲 要塞化する沖縄、島々の記録」(集英社新書、税込み1,320 円、320 ページ)を今年1月に発売。表紙、総扉の装画は画家の山内若菜が描いている

三上監督は「少し前まで沖縄本島の人は石垣や宮古のことに関心が薄かった。今は本島にも火が点いて、ミサイル基地統括本部が間もなく完成するし、民間の港が次々と軍事訓練に使われ、うるま市石川に新しくできる自衛隊の駐屯地の問題が連日報道されている。沖縄県内ではみんな知っていることが、世の中に知られていないことがとても怖い」と話す。

そして「沖縄でも本土でもアメリカ軍基地反対は受け入れられやすいが、自衛隊基地への反対は、入り口のところで自衛隊是非論や憲法論に絡めとられてしまって広がっていかなかった。その間に自衛隊を島に入れていいのかという議論ができないまま『国防』の名のもとに、島の生活が根底から壊されている。武力攻撃事態以前に、政府が武力攻撃予測事態と決めたら島外避難を求められて、住民は島を捨てなければならない。それは何のための犠牲なのか。本来、どことどこが戦争するの? 誰から何を守るの? 前提がこんなにあやふやなのに、究極のところまで来ている。しかもそれがニュースにもならない。あまりにも世の中が関心を持たないことに戦慄します」と続けた。

私たちは「多少の犠牲は仕方がない」という時に、自分たちが犠牲の側に入るということを想定しているだろうか。

「多少の犠牲は仕方がないという時に、いつも多少の犠牲の側に入ってしまう地域にいる者から見たら、そう言われることの残酷さを思います。日本という本体が生き延びるためには、北海道の端の方、沖縄の端の方で戦争が起きても、それはそれで対処すればいいのではないか。自分のいるところまでは来ないから。群れで生きる人間は、そういう鈍さを持っていると思います。

だけど、日本中の人たちの無作為、興味のなさ、何もしないことが何をもたらしているのか。今戦争に向かっている日本の流れは、どう考えてもよくない。それを何とかしたいと思っている人たちは、たくさんいると思うのです。

よく言いますが、悪が勝つのは、自分が善の側にいると思っている人たちが何もしないから。善の側にいる人たちが一生懸命動いたら、悪を勝たせることは多分ない。だけど今のところ大部分の善の側にいる人たちが何もしていない」

全国で1300回実施したスピンオフ上映会が生んだもの

三上監督は昨年、新作映画をつくる過程で撮った素材を40分ぐらいにまとめたスピンオフの番外編を作り、「沖縄、再び戦場(いくさば)へ」という仮タイトルで全国で上映会をした。

三上監督は言う。「市ヶ谷や永田町などにいる中央の人たちは想像力がやせていて、沖縄や南西諸島は地図上の点、本当に不沈空母にしか見えないのでしょう。でも、ここにはかけがえのない自然に囲まれて、豊かな人生を生きている人たちがいます。その様子を伝えるドキュメンタリー映画は、中央の人たちの想像力が足りないところを補えるものだと思うので、見に来てほしい」

「ナレーションも何もない、ただの素材だったんですけれど、それを受け止めてくれた人たちが日本中で小さな上映会をどんどんやっていってくれたんですよね。去年の3月から10月末までの8カ月の間に5人とか10人とかの顔が見えて名前がわかる少人数でスピンオフを見るということが1300件も行われました。その可能性を私は今とても楽しみにしています」

スピンオフの上映会をした人たちから三上監督はこんな話を聞いている。

「コロナで集まれずに活動できなかった団体がたくさんあり、スピンオフの場ではこれもやりたい、あれもやりたいと、ものすごく熱かったそうです。別に沖縄の問題だけじゃなくて、次の選挙でこの人を応援しない?という話だったり、上映会があるというストーリーでただ集まりたいだけだったり。私の映画はあくまでも縦糸で、このメンバーであれもできる、これもできると考えていた。実はそれこそ私がスピンオフで目指していたことです。

既成の団体が力を持てなくなっている中で、あちこちに新しい集まり直しの芽がどんどん出てきている。そのもとになる沖縄の5,6年の出来事、私が泣きながら撮った映像は『何かしなきゃ!』と思わせるには十分だったんですね。これを見て、こんな日本じゃダメだよねと集まった人たちの半分以上はこれから何かになっていくと思います」

この試みを三上監督は「壮大な実験」と言う。「実験はまだ途上なんですけれど、スピンオフでできた新しい平和のサテライト。沖縄の軍事要塞化を直接、止めてはくれないにしても、戦争に向かう日本を止める新しい集まり直しになるんじゃないか。そのことが私の自信になりました。この映画を作る時に応援してくれたことはもちろんなのですが。ドキュメンタリーが人を動かしていく。悲しいだけに思えた、基地作られちゃいました、ミサイル入ってきちゃいましたというような映像が、そういう集まりの土台になっていくんだったら、決して無駄じゃなかったなと思います」

スピンオフ上映会に集まった人たちの名前は映画の最後に延々と流れる。「名前だけで5分のエンドロールです。日本の大衆に力がなくなって、メディアにも力がなくなってという中で、これだけの人が関心を持ってお金も出して、今この映画が見られている。あの5分が訴えてくるものの意味を考えると、捨てたもんじゃないなという感じがすると思います」

「今、普通に隣の国と仲良くしたいということが、言えなくなってきています。でも、まだ言える。ごく単純に、どことも戦争をしたくないし、隣の国と仲良くしたい。謝るべきことがあったら、いくらでも謝るし、武器を持って『仲良くしたい』と言うつもりもない。丸腰で『仲良くしたい』とみんながまだ思える時に、それを言わないといけないと思います」

タイトル「戦雲-いくさふむ-」と歌に込められた祈り

山里節子さん

映画のナレーションを担当したのは石垣島の山里節子さん。どんな感情でも載せられる八重山の即興の歌とぅばらーまの歌い手だ。

「初めて節子さんに会ったのはもっと前ですけれど、2016年に節子さんと一緒に初めて自衛隊のミサイル基地建設予定地に行った時に、映像にあるように低い雲が厚くたれこめて、この世の終りみたいな風景でした。それを見て節子さんが『また戦雲が湧き出してくるよ、怖くて眠れないよ』とその場で歌ってくれたんです。それを映画のタイトルにしました」

「戦を告げる不吉な雲を表す『戦雲(せんうん)』という言葉は、日本では戦国時代からあるし、英語をはじめ世界中で同様の言葉があるようです。沖縄本島では『いくさぐむ』と発音しますが、八重山では『いくさふむ』と音が変わります」

三上監督は山里さんからいろいろなことを教わったという。その中で印象に残っている言葉は「祈るだけでは平和は来ないけれど、祈りなしには平和はつかめないのよ」という言葉だった。

「とても深いことをおっしゃっていると思いましたが最初は、半分わかるけれど、半分わからなかった。映画を作る過程で、7、8年一緒にいろんなことをさせてもらいました。映画でも描きましたが、負け続けて(軍事施設が)できてしまって、もうダメだ、あきらめて島を出ていくしかない、どうにもならない、どん詰まりだな、という時に、じゃあもう歌うしかないね、と。これは古い石垣の言い回し、教訓なんですけれど、どうにも暮らせなくて、居ても立ってもいられなくなったら、歌って暮らすしかないね、というものです。

歌や祈りが一番最後に残る。それがあれば、望みを捨てないことができる。おなかが空いても眠れなくても、最後に歌や祈りがあるさ。それがある強さ、そう思える強さというか。破れかぶれの強さですけれど、そういうギリギリのところで踏ん張ってきた先祖の強さがもらえる人たちなんだなと思いました。地域に伝わっている歌や祭りなどの中から、勇気や元気を出す方法、みんなで力を合わせる方法が学べる。私は民俗学をずっとやっていましたが、そういうのが祭りや神歌、祈りの言葉の中にいっぱいある。ステキだなあ、うらやましいなあと思いますね」

ともに目撃者になり、歴史を背負う当事者に

過去の歴史からの贈り物もあり、豊かな暮らしが営まれている島が、軍事要塞化され、有事には島を空にして住民は出ていかねばならない。「国防」とは何なのか。誰のための犠牲なのか

映画のチラシに書いてある「今からでも遅くはない。共に目撃者になり、今という歴史を背負う当事者になってほしい」という三上監督メッセージには、どういう意味が込められているのか?

「遠いところのことは誰も皆、想像できません。私は沖縄にいるから離島に行って、自分がいっぱい目撃したわけです。目撃したら嫌でも当事者になってしまいます。私が映像を撮ってくるから、劇場で目撃者になってほしい。私は一人で目撃して、一人でパニックになって、なんでこんなことになっているのにみんな知らないんだ、とおろおろしている。そんな私のそばに、本当はあなたにいてほしかった。そういう気持ちです。映画を見てくれる一人ひとりが、もしあの時に私のそばにいたら、私はこんなにおろおろしないし、こんなに嘆き悲しまなかったかもしれないし、一緒に何かができたかもしれないというような思いがあって。私一人でカメラを回して嘆きながら。今からでもあなたが隣にいたら、もっともっと一緒にできたかもしれない。呼びかけですね」。その呼びかけに応えるのは、あなただ。(大田季子)

三上監督の生の声が聞ける舞台挨拶は、関西での上映館でも予定されている。

元町映画館:3月17日(日)12:50の回上映後●第七藝術劇場:3月17日(日)15:50の回上映後と29日(金)12:25の回上映後●京都シネマ:3月28日(木)12:20の回上映後。

「戦雲-いくさふむ-」公式サイトはコチラ https://ikusafumu.jp/

©️2024『戦雲』製作委員会




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