手を携えて理想へと向かおう! 確かに受け止めた佐渡さんとPACからの熱いエール~兵庫芸術文化センター管弦楽団 特別演奏会「佐渡 裕 第九」

【PACファンレポート㊹特別演奏会 ベートーヴェン生誕250年 佐渡 裕 音楽の贈りもの PAC with ベートーヴェン! 第2回「佐渡 裕 第九」】

「佐渡さんの第九が聴ける!」12月13日、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールに集まった超満員の聴衆は全員、そんな期待に胸を膨らませていたに違いない。12、13日の土日、全2回の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)演奏会のチケットは早々に完売。開演前の劇場は今から始まる特別な時間を心待ちにする人々の浮き立つ気持ちでざわめいていた。

マイクを手にした佐渡さんの姿がステージに現れると、ざわめきが拍手に変わった。

特別演奏会のチラシの表面

「昨日今日、そしてその前日の開館15周年記念演奏会。このホールに超満員のお客さんを迎えて『第九』を演奏できることを、本当にうれしく思います。記念演奏会では合唱の第4楽章だけでしたが、昨日と今日は全曲です。『第九』は、このセンターが開館した時に演奏した曲で、以来、このホールでは10周年など特別な時だけに演奏する曲として封印してきました。15周年の今年、コロナに見舞われて大変なことになってしまいましたが、僕は、こんな時だからこそ『第九』を演奏したかった。

『第九』はおめでたい曲のように思われているかもしれませんが、合唱は、バリトンの<ああ友よ、このような音楽ではなく、もっと心地よく、もっと喜びに満ちた調べに声を合わせようではないか!>という、現状を否定する歌詞から始まります。この部分はシラーの詩ではなく、ベートーヴェン自身が書きました。このままではいけないと現状にNOを告げて、手を携えて理想へ向かおうと呼びかける曲です。何度も演奏していますが、今年僕は特に<万人よ、抱きあえ!>という言葉が非常に沁みています。感染予防でハイタッチもハグもできない状況ですが、音楽は人と人をつないでくれます」

そう話した後で、第1楽章から第4楽章までの曲の構成を丁寧に解説。11日に今期限りでの退任を公表した井戸敏三兵庫県知事の姿が客席にあることを紹介し、「阪神・淡路大震災からの心の復興のシンボルとなるこの劇場の意義をご理解いただき、本当に長い間ご尽力いただきました。ありがとうございました」と感謝の言葉を述べ、「とはいえ、まだ8カ月任期が残っていますので、最後までよろしくお願いいたしますね」と加えて笑いを誘った。

総勢74人の大編成オーケストラに、ソリストの歌手と40人のプロの混声合唱団が挑んだ演奏時間約70分に及ぶ大曲は、聴衆の期待を裏切らない素晴らしい出来栄えだった。

佐渡さんが解説した通り、第1楽章は激しい調子で現実を切り裂いていくイメージの連続。弾むようなリズムで主題を繰り返す第2楽章、そこになだらかな曲線を描くように木管(クラリネットのフルヴィオ・カプラ、フルートのフランチェスカ・ブルーノに拍手!)が加わり、曲が変わる場面でティンパニ(池田健太に拍手!)が巧みに使われる。

第2楽章が終わると、合唱団とソリストが登場。佐渡さんが「ベートーヴェンが素晴らしいメロディメーカーだったことがよくわかるロマンチックな曲」と解説した第3楽章は、夢みるように美しい調べに陶酔した。第3楽章が終わるとすぐに合唱付きの第4楽章へ。前半のオーケストラ演奏に続いてバリトンの甲斐栄次郎が、佐渡さんがプレトークで話した歌詞を歌い上げ、合唱が「フロイデ!」と応える。そこからは魂が震えるような歌声がホールを揺るがすように続いていく。テノール行天祥晃、ソプラノ並河寿美、メゾ・ソプラノ清水華澄。芸文センターにはおなじみの歌手たちとひょうごプロデュースオペラ合唱団(合唱指揮:石原祐介)。今年、このホールで「第九」を歌うことに込めた皆さんの祈りと思いを、しっかりと受け取ることができたと思う。

 

鳴りやまない拍手に、何度も何度もステージに呼び戻された佐渡さんとソリストたち。思いがけず聞けたアンコールは、ヴェルディのオペラ「椿姫」から有名な「乾杯の歌」! 満足した顔で、距離を取りながらホールを退出する聴衆は、同じようにステージ上で一人ずつ退出していく合唱団メンバーに気づき、最後の一人がステージを去るまで惜しみない拍手を送っていた。

ホワイエにあるギャラリー「ポッケ」の公演案内の表示にも、ずいぶん早くから「完売」の表示がされていた

コンサートマスターは、今年9月にPACの3人目のコンサートマスターに就任した田野倉雅秋(元大阪フィルハーモニー交響楽団首席コンサートマスター)が登場。ゲスト・コンサートマスターとしてもPACとは何度も共演してきた演奏家だ。

ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの田中美奈(大阪フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの中島悦子(関西フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席、神戸市室内管弦楽団奏者)、チェロの丸山泰雄(紀尾井ホール室内管弦楽団奏者、トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア首席)、コントラバスの黒木岩寿(東京フィルハーモニー交響楽団首席)、バスーンの中野陽一朗(京都市交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはPACのミュージック・アドバイザーも務める水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)とホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)。PACのOB・OGはヴァイオリン6人、ヴィオラ3人、コントラバス2人、トロンボーン1人が参加した。(大田季子)

【特報】

「PACわくわくOnlineオーケストラ教室」公式YouTubeチャンネルで配信開始!

6月からWEBで配信してきた「Meet-HPAC~リサイタルホールから~」は12月4日に全24回で終了。新しく「PACわくわくOnlineオーケストラ教室」が始まっています。

「芸術文化センターから音楽の楽しみを届けたい」と話す佐渡裕芸術監督のメッセージ動画と、初回配信の「わくわくOnlineオーケストラ教室 妖精パックのオーケストラってなぁ~に?」Part1:ベルリオーズ作曲『幻想交響曲』第1楽章「夢、情熱」より が誰でも視聴できます。

お茶目でかわいい妖精パックと佐渡裕芸術監督のトークで、ベルリオーズがこの曲を作った背景や聴きどころを、楽器の紹介も交えながら、子どもたちにもわかりやすく解説(もちろん、大人も勉強になる内容です)。

最後に第1楽章を通しての演奏は、2019年1月の第111回定期演奏会で収録したものを使用。当日、来日してPACと共演したシルバ・オクテットのメンバーや卒団メンバーの演奏する姿も見られる。ぜひアクセスして、家族で楽しんでほしい。

兵庫芸術文化センター管弦楽団 公式YouTubeチャンネルはコチラ




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