尼崎で在宅医療に取り組む長尾医師のドキュメンタリー映画「けったいな町医者」大ヒット上映中

尼崎で在宅医療に取り組む長尾和宏医師に密着したドキュメンタリー映画「けったいな町医者」が、同じく公開中の高橋伴明監督の最新作「痛くない死に方」とともに話題を呼び、各地での公開が延長されている。

「東京では複数の人から『けったいな、というのはほめ言葉ですか?』と聞かれました。関西特有のニュアンス、受け取り方ですが、僕と長尾先生はけったいという言葉に不思議な魅力を感じています。愛情もあるし、ちょっと鬱陶しいなという気持ちもある。言い方によって愛情と嫌悪のバランスが変わる。アホという言葉とよく似ているのかもしれません」と話す毛利安孝監督=2月2日、大阪市内で

高橋監督の作品は劇映画で、長尾医師の著作「痛い在宅医」と「痛くない死に方」(ともにブックマン社)を原作に、高橋監督が脚本を手掛けたもの。「けったいな町医者」は20数年来、高橋組の助監督を務め、「痛くない死に方」にもチーフ助監督で参加した毛利安孝(やすのり)監督の初のドキュメンタリー作品だ。「痛くない死に方」で主演した柄本佑さんがナレーションを務めている。公開前の2月、毛利監督に話を聞いた。

「一昨年の夏、高橋監督の撮影現場には、医療指導で長尾先生にも入っていただいた。その時の印象は、変わったおっちゃんだなというものだった。そのころ、作品のDVD販売を見越して、特典映像になるドキュメンタリーを撮っておこうという話が出た。たまたま僕の実家が東大阪で、阪神なんば線一本で通える。コスパがいいんじゃないかということで白羽の矢が立った。僕自身、尼崎の街で長尾先生がどう立ち居振舞っているのかに興味があったので『納得するまでやっていいですか?』と言うと『いいよ。ただし予算内で』と。その時点から、僕の中ではうまくいけば映画にできるかもという思いはあった」

 

密着取材した期間は2019年11月から20年1月11日の仕舞戎の翌朝までの約2カ月。長尾医師の提案で「君はプロの映画スタッフではなく、長尾クリニックの記録係、僕の助手として帯同したほうがいい。その方が患者さんもストレスを感じないだろう」。撮影機材も家庭用のコンパクトなものにして、朝から晩まで一日中、長尾医師について回った。「映画は116分ですが、カメラを回して撮影したのはその4、5倍の時間。臨終場面にもカメラが入ったので、躊躇しまくりました」

 

撮影の日々で感じたのは「こういう考えのお医者さんもいるんだな」ということだった。

在宅医療の現場に「長尾クリニックの記録係」としてカメラが入った

「長尾先生は人間の終末期において過剰な延命をせずに、その人らしい最期を迎える手助けをする。病ではなく人を見て、その人がどう死にたいかを聞き出して、家族を集めて人生会議をする。どう亡くなりたい? どこが好き? 何か不満はあるか? 嫌なことあるか? 遠慮しがちな日本人に『死の瞬間まで満足しているのが人間やろ?』と。すると患者は、やせこけながらも元気で、枯れるように死んでいく。それは僕の知っている医療とは全く違った。教わりましたね。専門的な医者がそういう考えでいてくれたら、一人ひとり、人生はそれぞれが主役。その主役が自分の最期をきっちりと考えれば、この先どう生きていくかにつながる。亡くなるという言葉にすると違って聞こえるけれど、人間そこまでが生きるだから」

 

移動中の車で、クリニックのスタッフに口頭でカルテに記載する事項を伝える長尾医師

最後の撮影になった仕舞戎の前日、長尾医師が「毛利くん、もうええやろ」と言い出した。「ずっと一緒にいたのでストレスを感じたのかもしれません。『先生がええと言うんだったら、僕ももうええです』と答えて、最終の新幹線で東京に帰るつもりだった。ところが長尾先生から、その日阪大の同窓会があるので恩師と会う。そのシーンを撮って僕にくれないか、と言われたので撮影を続けていたら、その夜、ある患者さんが急変した」

時系列で進むドキュメンタリーは、エンドロールの後で、その場面が続く。

 

撮影後に課題があった。患者さんは「長尾クリニックの記録係の撮影」は許可したけれど、「映画として公開すること」は許可していない。長尾医師からは「まずは毛利くんが使いたいと思うもので1本作ってくれ。それを持って患者さんや家族の許可を取りに行こう」という提案があった。

編集は昨春、コロナ禍での作業だった。長尾医師が以前、スマホで撮影していた映像も一部使った。「先生のおっしゃる“平穏死”の現場に居合わせて、編集しながら悩みましたが、露悪とは思わなかった。ありのままで、と」。しかし最終的にNGの患者さんあり、テロップで処理せざるを得ないシーンもあった。

患者さんはこの笑顔を待っている

「高橋監督が『痛くない死に方』で提示されたことを含めて、長尾先生を取材させてもらって僕も考えが変わった。老いていくことは、身内や近しい人に迷惑をかけることではない。本人が最後までどう生きていくかという話なのだと。『痛くない死に方』で宇崎竜童さんが演じた役は高橋監督の願望、希望のある終わり方の映画です。一方、『けったいな町医者』はこれが日常です、長尾先生の日々はこのように過ぎていますという提示にはなったのかなと思う。長尾先生は、人間が前向きになった時のポジティブな力を純粋に信用しているからこそ、今までの経験値や挫折を含めて手に入れた自分の医療の信念を、自信をもって実践して、あれだけの仕事をしているのだと思う」

 

毛利監督は、この映画を作ることで「長尾先生を好きになった」と言う。「撮影している最中は、今日何が起こるかわからない中で、先生の後ろをひたすら追っかけるだけだった。先生としゃべる。先生の話を聞く。時折、反論をし、質問をする。その間は、取材対象であるその人を冷静には見られない。終わって編集をしている時、自分が撮った画(え)だけど、覚えているところと覚えていないところがあった。それを見ながら『あ、今この時もこの人はこうしているんだ。こんなに頑張っている人が本当にいるんだ』と客観的に見られるようになり、最初は眉唾ものかもと思っていた長尾先生を好きになりました」

【上映情報】なんばパークスシネマ、京都シネマ、神戸国際松竹、MOVIX堺、塚口サンサン劇場、第七藝術劇場で公開中。

公式ホームページ https://itakunaishinikata.com/kettainamachiisha/

©「けったいな町医者」製作委員会




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